風の中の牝鶏

 【小津安二郎の図像学】 を観て、
 すっかり “ 小津の伯父さん ” が好きになり、
 火が点いたというか、弾みがついてしまいました(苦笑)

 神保町シアターでは、生誕110年を記念して
 小津安二郎監督の特集上映をやっておりまして。
 『風の中の牝鶏(めんどり)』 を観ました。

 1948年製作。主演は 田中絹代、佐野周二。
 戦後間もない東京が舞台です。


夫・修一(佐野周二)の復員を待つ妻・時子(田中絹代)は、幼い息子・浩と二人暮らし。
一軒家の二階を間借りし、着物を売って食いつなぐ日々で、生活は困窮していた。

ある日、浩が急病で入院。
今の時子にとって生きる支えである浩は、生死をさまよっていた。
寝ずの看病で なんとか一命を取り留め安堵するも、入院費が払えない。
もう売る着物もなく、頼れる親類もない。
悩み抜いた末に、ある女の紹介で、一晩だけ体を売ることで金を得る。

程なくして、修一が復員。一家には幸せな時間が戻った。
ところが、浩の入院費をどう工面したかを問い詰められ、
時子が事実を打ち明けてしまったことから、夫婦は互いに苦悩を抱える・・・

小津作品としては珍しく、過酷な現実を直視して描いており、
暴力表現があったりで、異色と言われている作品です。
公開当時の評判も良くはなく、監督本人も本作には満足はしていなかったみたい。
確かに異色ですが、ローポジションの撮り方や構図、
朴訥とした台詞回しなどは、しっかり小津調でした。

(以下、ネタバレあり)
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| 2013.12.21 Saturday | 2013 movie | comments(0) |
ゼロの焦点(61)
1961年に公開された映画 『ゼロの焦点』 をDVDで観ました。
言わずもがな、松本清張原作のベストセラー小説を映画化したもの。
監督は野村芳太郎、脚本は橋本忍、山田洋次。

2009年には犬童監督がリメイクしています。
※その記事は、こちら ⇒


 2009年版で広末涼子が演じた
 主人公・鵜原禎子役は、久我美子

 木村多江が演じた田沼久子役は、有馬稲子

 中谷美紀が演じた室田佐知子役は、高千穂ひづる

 西島秀俊が演じた禎子の夫
 鵜原憲一役は、南原宏治
 (残念ながら、私が知らない俳優さんでした)


2009年版は、すごく長く感じたのですが、調べてみたら 2時間強。
1961年版は、1時間半でさほど変わらないのですが、あっという間に感じました。

モノクロの映像で、雪深い金沢の町並みは観ているだけで凍るようで、
日本海に面した断崖絶壁は荒々しく、臨場感たっぷり。
いくつもの謎の死に翻弄されるロケーションとしては完璧とも言えます。

崖の上で犯人が告白するシーンは、原作にはないのだとか。(私、原作は未読)
そして、今ではサスペンスドラマの定番になった この “ 崖での告白 ” は、
この映画が発端なのではないかと言われています。

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| 2013.12.13 Friday | 2013 movie | comments(0) |
娘・妻・母

 成瀬巳喜男監督の映画
 『娘・妻・母』 をDVDで観ました。

 1960年の作品なのですが、DVDのジャケ写を見て
 モノクロ映画だと思い込んでいたんです、私。

 だから、映画が始まって まず思った感想は、
 「あら、カラーだ!」 でした(苦笑)


[あらすじ]
未亡人で還暦を迎えようとしている あき(三益愛子)は、二男三女の母。
長男の勇一郎(森雅之)と 嫁の和子(高峰秀子)、幼い孫の義男、
末っ子で独身OLの三女・春子(団令子)と同居している。

日本橋の旧家に嫁いだ長女の早苗(原節子)は窮屈な家風に馴染めず、
夫と共働きの次女・薫(草笛光子)は、同居している姑(杉村春子)と反りが合わない。
カメラマンの次男・礼二(宝田明)は、銀座にスタジオを持ち、
カフェのオーナーで元モデルの姉さん女房(淡路恵子)と
モダンな住まいに気ままに暮らしている。

ある日、長女の早苗が夫の慰安旅行中に実家に帰っていると、
夫の乗っていたバスが事故に遭い、そのまま帰らぬ人となってしまう。
葬儀後、嫁ぎ先に居づらくなった早苗は離縁され、
まとまった夫の保険金を持って実家に出戻ってくる・・・。

あらすじは、ザッとこんなところです。
上記の他、春子の会社で働き 早苗に惹かれる青年役に仲代達矢、
早苗のお見合い相手で 京都のお茶の宗家役に上原謙、
あきが公園で出会う老人役に笠智衆などが出ています。

娘と母、妻と夫、嫁と姑、お金と家族、老後の不安。
どこのウチにもありそうな家庭の問題だけど、
積もり積もって物語はなかなか複雑な展開を見せます。
どんどん引き込まれ、自分も当事者のような気分で 一気に観ました。

登場人物が多く、その関係性が分かりづらいところなのですが、
冒頭、信託銀行に勤める早苗の女友達が
勧誘として 早苗の兄弟姉妹の家々を廻っていきます。
その会話のやりとりで、いとも簡単に
観客に相関を理解させてしまうあたりは、脚本の妙と言えましょうか。
(脚本は、秀子さんの夫・松山善三氏、井手俊郎氏です)
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| 2013.12.11 Wednesday | 2013 movie | comments(0) |
我が家は楽し

 東京フィルメックスの連動企画
 【中村登監督 生誕100年記念特集上映】 で
 『我が家は楽し』 を観ました。 1951年の作品です。

 真面目で実直だけれども、
 ちょっとウッカリ者のお父さん役に笠智衆。
 優しく朗らかで、子供に無償の愛を注ぐ
 お母さん役に山田五十鈴。
 画家を志すも、なかなか芽の出ない長女役に高峰秀子。
 明るく、歌が上手な女学生の次女役に岸惠子。
 この下に小学生の弟と妹がいて、6人家族。

 裕福ではないけれど、慎ましやかで、
 笑顔の絶えない一家の物語です。


これがまあ、本当によくできた作品で、素晴らしかったのです。
いとしきエブリデイ』 と比べて、なんと清々しい家族なんでしょう!
私は、こういう昭和のホームドラマが好きなんだなあ、とつくづく思いました。

特に、山田五十鈴のお母さん役が良かったです。
「ザ・昭和のおふくろさん」 と言いましょうか、「良妻賢母の鏡」 と言いましょうか。
自分を犠牲にしてまでも、家族のために尽くす姿は、
古き良き時代の日本の母親像なんでしょうかねぇ・・・

(高峰)秀子さんも可愛かったなあ〜。
笑顔に華があるんですね。ニコッと笑うと、場面がパッと華やぐ。
そして、恋人役には(またもや)佐田啓二!
秀子さんとは、何度目の共演になるのでしょうか?
時には恋人だったり、はたまた夫婦だったり、いろいろな二人です(笑)

あと、室内(セット)で人物を写すシーンで
人物の影がしっかり映っているのが印象に残りました。
それだけ強い照明を当てているということですよね。
| 2013.12.04 Wednesday | 2013 movie | comments(0) |
いとしきエブリデイ
イギリスのマイケル・ウィンターボトム監督の
映画 『いとしきエブリデイ』 を観ました。

シネマリストには入っていない本作を観た理由を正直に話せば、
レイトショーの 『我が家は楽し』 開映までの時間潰し、でした。

父親が服役している、ある家族の物語です。
父親と母親、それぞれの役は俳優が演じていますが、
上は8歳、下は3歳の4人の子供たちは 実の姉妹・兄弟。
5年間の物語を、実際に5年かけて記録映画のように撮っています。
(日本で言えば 「北の国から」、アメリカで言えば 「大草原の小さな家」 形式ですね)

子供達のしぐさや表情は自然で、本当に愛らしかった。
また、イギリスの片田舎の美しい自然をみずみずしく写し出す映像、
四季折々の風景を通しての時間経過の描写、
マイケル・ナイマンによる感動的な音楽は、
いずれも素晴らしい効果を与えていました。

しかし、中盤から繰り返される父親と母親の性愛描写がね・・・
回数を重ねる度に、作品が俗っぽく 安っぽくなっていき、残念でした。
爽やかな家族の再生物語かと期待していただけに、なんだかガッカリ。
リアルと言えばリアルなんだろうけど、
好きか嫌いかで言えば、好きじゃないな、この演出は。
| 2013.12.04 Wednesday | 2013 movie | comments(0) |
罪の手ざわり
今年の東京フィルメックスのオープニング作品、
中国のジャ・ジャンクー監督最新作 『罪の手ざわり』 を観ました。
ジャ・ジャンクー監督作品を観るのは、本作が初めてです。

中国で実際に起こった4つの事件を元に、
民主化の波に押される現代中国の庶民が抱える問題、
社会のひずみをオムニバス形式で描いています。

タイトル通り、それぞれの事件に関わる主人公たちは、
犯罪に手を染めることになるのですが、そこには明確な動機がある。
罪を肯定はできませんが、彼らの苦しみ、憎しみ、
悔しさ、悲しさは理解できるし、共感できる。
(むしろ、「誰でもよかった」 などと言って、無差別に人の命を奪うような
 近年の日本で起こる殺人事件の方が、よっぽど理解に苦しむ)

事件に至るまでの個々の心情の移り変わりを
直接的な説明を使わずに、しっかり丁寧に描いているところに
監督の力量を感じましたし、作品に強さと説得力があると思いました。

フィルメックスの作品の中では、分かりやすい映画だと思います。
それでいて、芸術的なシーンも多く、娯楽的な要素もあり、バランスがいい。

映像の中には様々な動物が出てくるのですが、
言葉を発することができない動物たちを、暗喩として使っているのが印象的でした。
様々な規制や制限の中で生きる中国の人々の姿と重なって見えたから。

また、それぞれの事件の背景には、金銭にまつわる問題が関係していて、
民主化、近代化の勢いの裏にある中国の暗部を映し出すかのようでした。
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| 2013.11.24 Sunday | 2013 movie | comments(0) |
乱れる

 成瀬巳喜男監督の 『乱れる』 をDVDで見ました。

 主演は、高峰秀子、加山雄三。
 製作は1964年、脚本は松山善三。
 ※高峰秀子さんの夫です。

 舞台は、静岡の清水。
 日本にもスーパーマーケットが進出し始めた頃。
 舟木一夫の 『高校三年生』 をバックに
 スーパーの宣伝カーが走るシーンが時代を感じさせます。


そんなスーパーの勢いに押され気味の商店街にある
昔ながらの酒屋の長男の嫁・礼子(高峰秀子)。
彼女は戦争未亡人になって18年、酒屋を健気に切り盛りしてきました。

その酒屋の次男坊・幸司(加山雄三)は、大卒で入社した会社もすぐに辞めてしまい、
実家に戻って仕事もせずに、酒に麻雀、パチンコと道楽三昧の放蕩息子。

ところが、ある日、幸司が12歳年上の義姉・礼子に
想いを寄せていることを告白します。
許されぬ恋が、平穏だった日常に変化を生じさせる・・・という物語。

言ってしまえば、メロドラマです。後に昼ドラになったというのも納得。
しかし、名匠・成瀬監督は、文芸作品のような
悲恋物語に描いていて、さすが!と思いました。

女を描くことに定評がある成瀬監督ですが、本作も然り。
礼子の義妹役の草笛光子、白川由美、
幸司の遊び相手役の浜美枝、いずれも素晴らしい描写でした。

そして、クライマックスの高峰秀子の表情! これに尽きます。
ストーリー展開は ある程度予想できましたけど、
あのラストカットはもう脱帽でした。

成瀬監督はひねくれ者で、口数も少なく、具体的な演出もしないと
(高峰)秀子さんがエッセイに書いていたけれど、
このラストカットを監督はどうやって引き出したのか、とっても気になります。
| 2013.11.11 Monday | 2013 movie | comments(0) |
ステキな金縛り
地上波で三谷幸喜監督の 『ステキな金縛り』 を観ました。


 うん、面白かった!

 三谷作品の中では、一位二位を争うかも?

 深っちゃんもチャーミングでよかった。
 (歌も上手〜♪)

 落ち武者の幽霊役の西田(敏行)さんも
 コメディー120%って感じで可笑しかったー!

 中井貴一さんも◎

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| 2013.11.09 Saturday | 2013 movie | comments(0) |
風立ちぬ
やっとこさ、宮崎駿監督の 『風立ちぬ』 を観ました。

う〜ん、なんだろうな・・・
そして父になる』 の余韻を残したまま観たのが、良くなかったのか・・・
(だから、私は二本立てが好きではない)


 なんというか、作品に対して
 素直に向き合えなかった、というか。

 堀越二郎という主人公の飛行機に対する夢と、
 菜穂子への愛を、同列に描くことに
 私は違和感を感じてしまったんですよね。

 それはたぶん、自分が、同時に両方に同じだけの情熱を
 注ぐことができない人間だからなのかも?と思ったり。


ただ、客観的に観ても、
二郎が飛行機に夢中になっている時は メカニック=男性的なジャンル、
菜穂子に夢中になっている時は メロドラマ=女性的なジャンルなんですよね。
私はどちらも興味がないので、作品の世界に入り込めなかったのかなあ〜。
あ、でも、後半の菜穂子のシーンでは泣きましたよ、人並みに(苦笑)

とは言え、宮崎駿の引退作をスクリーンで観られて、よかったとは思います。
一瞬で流れてしまうような短いシーンであっても、
細かい描写に こだわりぬいていることは伝わってきましたし。
あとは、イマジネーション豊かな絵は、やはり宮崎駿だな、と。
ファンタジーではない本作の中にも、宮崎ワールドは健在でしたから。

あ、賛否両論ある、二郎役の声優 “ 庵野監督問題 ”
私は、残念ながら 最後まで耳に馴染まず、
二郎と庵野監督が一体化することはなかったです・・・
親友・本庄役の西島(秀俊)さんが、
もし二郎の声だったら、どう感じたかな?と空想してみたり。

意外にも、一番しっくりきたのは、菜穂子役の瀧本美織ちゃんでした。
前半明るく、後半健気な菜穂子のキャラクターに合ってたと思います。
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| 2013.11.06 Wednesday | 2013 movie | comments(0) |
そして父になる

 『そして父になる』 を観ました。

 いやぁ〜、いい映画を観ました。

 もともと是枝監督の作品が好きだとか、
 カンヌで審査員賞を受賞しただとか、
 そういうものを抜きにしても、良かった。


父親役を演じる福山さんの演技に対する個人的な不安も、いつの間にか消えてた。
また、俳優陣それぞれも 自然な演技で、実に良かった。
オノマチさん、リリーさん、真木さん、
樹木さん、夏八木さん、風吹さん、みんな良かった。
なんと言っても、子供達の演技は素晴らしかった!
どれもこれも、是枝監督の手腕によるもの。 さすが!という感じでした。

子供達がね〜、本当に愛くるしくて、愛おしい。(特に、慶多くん!)
そして、本当に可哀相で、切ない。 子供が一番振り回されてしまうんだもの(涙)

これ、アメリカでリメイクが決まったみたいだけど、
ドヤ顔みたいなハリウッド版だったら観たくないなあ〜。

あと、この作品で私が唸ったのは、シークエンスです。
シーンとシーンを繋ぐ何気ない映像に、ググッとくるものがありました。
是枝監督のこういうセンス、好きだなあ。

それにしても。
お受験のシーンは日本特有のものだと思うのですが、
海外の人はどう観たのかしら??
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| 2013.11.06 Wednesday | 2013 movie | comments(0) |
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